景気政策入門講座−10  現状での基本認識と政策提案の基本方向−1

 前回まで“不況“の基本的経済構造とその方策について順次述べて来ましたが結論的方向が解っている時にそれを徒に引き伸ばして居る事は、若干の読者諸氏にももうしわけ有りませんので、ここで判明している限りでの、景気政策にかんする現状での基本認識と投稿者のそれに対する政策提言の基本方向を述べさせて頂きたいと思います。




尚、本日付け日本経済系新聞には“ブログ記事“に対する信頼性は概ね10%程度との記事がありましたが、投稿者の判断ではそれは、

①記事を書いているのがどの程度の人間であるかわからない。

②出典等が明確に示されていない。

等による物と思われます、本投稿では、




①については別サイトで“景気政策史“を投稿中ですのでそれで判断を頂ければと思います。

②については本日まで一々出典は示して来ませんでしたが本日はなるべくそれを示したいと思います。


いきなり入門講座から結論的提案になり戸惑われる方もいらっしゃるかも知れませんが、本日までの投稿でこの経済社会の骨格的見方は概ね説明したと思いますので一定の提案提起をさせて頂きたく思います。





▼基本認識としての世界の金融資産の急増と世界のGDPの大きさとのアンバランス▼


これは日経系のサイトでやや古いデータですが、
吉田繁治氏による“量的規制緩和解除は何をもたらすか“と言う記事であきらかにしていますが、
URL http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/contribute/g/02/index4.html


2005年段階で世界の金融資産は、

         1995     2005        
世界の金融資産 6095兆円    1京3800兆円     年率9%

世界のGDP  3000兆円      4000兆円    年率3%

比率         2倍     3.45倍


と言うデータが出されています。これは本投稿でも示してきましたが“金融市場“が独立して“無制限に“拡大する事は不可能である旨述べてきましたがこのデータでいくなら “物市場“の生産高がある意味GDPですから (GDPの中には金融収益も含むので正確では有りませんが)例えば1995年の金融資産からは例えば3%で収益を上げるとするなら182兆円の金融収益を出さねばならず、

又2005年にはやはり3%の収益を上げるとすれば414兆円の金融収益を出さねばならずこれはGDP(物生産)の一割以上にもなります。現在はこれから年数が経過していますので状況はもっと深刻であると思われます。


吉田氏もその記事の中で明らかにしていますが金利の一定の上昇がおきれば“金融破たん“は明らかである としています、つまり多くの投資信託等証券が“元本割れ“を起こすであろうと言う事です。


同様のデータは通商白書2008にもあります。
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2008/2008honbun/index.html





上記のような基本認識に立って“景気政策“を提言していく為には考え方的な基本方向としては、本投稿でも示してきました様に、財市場と金融市場のバランスを適正に保つと言う目標を考え、


イ)まずは“物市場“の流通を発展させ、又、
ロ)財源を作り国債等の“償還“を早期に進める必要が有る
ハ)”富裕層、一部大企業等の過貯蓄”を減らして行く事。(これは当然ですが”お金持ちを敵視する”と言う事では有りません)


と言うべきでしょう。


これに関し日銀が昨今国債需給改善と称して買い入れ枠を拡大しましたがこれはごく短期には可能かもしれませんが行きつく先は誰でも解るように通貨膨張によるインフレへの道でしょう。






▼財源増大への道としての▼

① 法人税引き下げ競争の停止と

② 所得税累進税制強化

③ 証券課税の強化

現在“国際競争力の強化“のお題目の元にイギリスのサッチャー政権から始まった法人税率の引き下げ競争が続いています。(当然法人企業は税率の低い所に行けば収益を増すことが出来ます。

しかし世界各国で無制限にこれを行うなら法人税の引き下げは反対の局としての“個人課税“の強化を齎し、又更に所得税の累進最高税率の引き下げ競争を行うなら結果論的に“消費税“強化の道しか残りません。
これは当然、消費縮小への道であり不況増大への道でしょう。


例:EU諸国では1993年から2006年までで平均税率は38%から25.8%になりました。


参考URL(KPMG税理士法人
 http://www.kpmg.or.jp/resources/research/r_tax200611_1.html



尚、所得税累進最高税率の変化は以下の財務省資料

http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/234.htm








これはOECDでも“国際間の有害な競争“として1996にしてきされ検討されてきましたが、日本政府部内文書でも“金融その他のサービス産業のような可動性の高い産業活動への税の軽課は可動性の低い活動(勤労所得、消費)に対する相対的重課となる“としています。


OECDにおける有害な税の競争プロジェクトの進捗状況について(政府)
2003年
URL http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/185.htm


このタイトルの上記文書が不明になりましたので代わりにジェトロの文書(ユーロトレンド2002.5レポート5)を挙げておきます。2011.6.15
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/05000336/05000336_001_BUP_0.pdf

▼▼▼参考までに同文書の前書き部分を掲げておきます。


経済のグローバル化に伴い、企業の経済活動の可動性が高まるなか、外国からの企業誘致を目的に、税の引き下げ競争が繰り広げられている。特に所得の移転が容易な金融、サービス等の分野において、企業がより有利な税制を持つ国にシフトすることによって、課税基礎が侵される国が発生するほか、可動性の低い活動(勤労所得、消費等)の重課にも結びつき、さらには資本移動、経済活動にゆがみをきたす可能性がある。

 このような問題意識からOECDは、「有害税制」や「タックスヘイブン」などの有害な租税競争への取り組みには、非加盟国を含めた国際協力が不可欠との認識のもと、96年より租税委員会において「有害な租税競争プロジェクト」の議論を開始した。

 同プロジェクトは、「自由で均衡ある税の競争が可能になる環境の促進」を目的とし、「税の競争」そのものではなく、貿易や投資パターンをゆがめたり、税制の公正と中立を損なうような租税慣行を抑制するもので、OECD内の租税委員会に設置された「有害税制フォーラム」が実施している。





















 これらは本投稿でも以前に示しましたように典型的な“合成の誤謬“の一つであり早急に対策が必要であると思われます。

只、上記文書は果たして政府部内でどのように処理されたか不明であり、インターネット上から“抹殺“されないよう願います。(2011.6.15現在所在不明であります)









▼税率引上げ(財源確保)の為の早急な国際協調を▼

 

 
 これら上記“合成の誤謬“は


(当然、これら税率引上げは単独では実施不可能であり、他諸国との協調を図ることが早急に求められますが−

 又それの無い場合は不況の長期化を招き、場合によっては”共倒れ”と言う事態にもなりかねませんが)、


 現段階での法人関係の税率引上げは直ちには困難であっても将来的にその方向は示すべきであり、富裕階級向け最高所得税率の引上げ(日本で言えば例えば年収数億円と言った人々等)配当等の証券軽課の是正等は現段階でも実施可能と思われますし、又それが公債償却や個人消費押し上げに使われるなら中期的に当然、状況の改善
に繋がり”消費者、投資家”の心理要因を改善することに繋がる事と思われます。

 

 

 
 19世紀の国際金融史的観点からするなら当時の不況時には国際金融協調は(英仏間ではある程度ありましたが)全く不十分で恐慌時には多くの金融センター間で金利の引き上げ競争が行われた事を注視すべきでしょう。













以下次回